ガンダムビルドダイバーズワールドチャレンジ ジムとボールの世界に挑戦!

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「We are the world. 〜 俺たちは世界だ 〜」

 大勢の女兄弟に囲まれ生きてきたボールにとって、混浴──異性との入浴など、それこそ吐いて捨てるほどの経験だった。狭い自宅アパートに申し訳程度に添えられたバスルーム。どれだけやめろと言っても、聞かずに彼女らはズカズカ入りこんでくる。そのたびに彼はため息を吐く、ただでさえ狭い湯船、たまにはひとりでゆっくり入りたいものだ。

 ただし今日の混浴は別だった。なにせ、ゆったり源泉掛け流しの天然温泉露天風呂ディメンション、湯気の向こうにいるのは、某公共放送の大晦日歌合戦でトリを飾るほどのあの国民的アイドルバンド『プチ・ルー』のメンバー、ノズとマーキーなのだから。もっともノズはシンプルワンピースの、マーキーはセパレートフリルの、それぞれ水着を着用してはいるけれど、

「あのさぁボール……なんか、ぜんっぜん温泉気分漫喫できないんだけどぉ」

「…………あたしらは別に、素っ裸でも構わないのに……減るモンでもなし…………」

 ノズとマーキーはしれっと言う。

 逆にドギマギしているのは男性陣、ボールと、七人のレジェンド・ガンプラ・ビルダーたちの方だった。 

 果たすべき、すべてのガンプラバトルが終わったいま、ボールは、心地よい疲労感が湯に溶け出していくのを感じながら、皆との戦いを、胸の中で振り返っていた。

 一人目の伝説のガンプラ・ビルダーは『ヨシ』、対戦したガンプラは『ゼータキュアノス』。フライングアーマーを装備した大気圏突入用ウェイブライダー形態、ウィングバインダーを装備したウェイブシューター形態に加え、フライングアーマーとウィングバインダーの双方を同時に装着した、ヨシのオリジナルである大出力重攻撃強襲形態、ウェイブダイバー。さらには、PBWS(プロトタイプ・バック・ウェポン・システム)と合体し、両腕にハイパー・メガ・ランチャーの長砲身と勇ましさを形にしたビームスマートガンとを備えたゼータキュアノス最終形態の圧巻の勇姿は、ボールを大いに翻弄した。

 二人目の伝説のガンプラ・ビルダーは『シモダ』、対戦したガンプラは『ストライクフリーダムガンダムMR‐G』。高難度の自作パーツを使わないでも、他のガンプラのパーツを流用することで、プロポーションを豊かにし、ディテールを大いにアップさせることが可能だと証明した、オリジナリティ溢れる機体。加えて高出力、高機動、重火力、重武装、さらにはキラキラ感をもてんこ盛りで兼ね備え、それを個性として味方につけた彼のストフリMR‐Gとのバトルは、そのガンプラに、多忙を縫ったモデリング作業の影響で発生した表面処理不足による整面の乱れや微細な傷がなければきっと、ボールの惨敗に終わっていただろう。

 三人目の伝説のガンプラ・ビルダーは『ロック』、対戦したガンプラは『ウイングゼロ・ルシファー』。その名の由来とも言える、ウイングガンダムゼロEWバージョンの優艶でエレガントな翼が隠し持った、メッサーツバーク8基と左右の腰に装着したツインバスターライフル……それらがひとつとなり、ドライツバーク形態で放たれる凶悪なるいかづち、ジェノサイド・テンフォルドバスター。さらに華麗に広げた翼に備えられたジェネレーター兼ブースターによって生み出される凄まじい機動性は、ボールを大いに翻弄した。もし、ジェノサイド・テンフォルドバスター発射後の冷却時間という隙がなければ、勝負の行方はどうなっていたことか。

 四人目の伝説のガンプラ・ビルダーは『ヤマタツ』、対戦したガンプラは『ガンダムノイズキャンセラ』。MGガンダムアストレイをベースに瞬発力特化のため、その装甲を限界まで薄くし、飛行能力も排除、極限まで軽量化させた機体のおかげで、他のガンプラの追随を許さない敏捷性を備えていた。決して強大な火力を持たなかったが、代わって奇襲攻撃に特化しており、会敵と同時にビーム攪乱弾を展開、相手のビーム攻撃を無効化したところで閃光弾・煙幕弾を繰り出し視界を遮り、人間のようなしなやかな動きによって一気に間を詰め、近接打撃によって相手に致命傷を食らわせる。そのトリッキーなバトルスタイルに、ボールは大いに苦しめられた。

 五人目の伝説のガンプラ・ビルダーは『ユースケ』、対戦したガンプラは『フルアーマーガンダム バラージュ ザ ヘッジホッグ』。その名の通り、MGフルアーマーガンダム(サンダーボルト版)をベースに、ハリネズミの如く施されたあまたの装備……機体本体のミサイル、両腕に二連装ビーム・ライフルとロケット・ランチャー、右肩にGNバズーカ、背部にはシールドに装着されたファンネルが四基に加えてミサイルランチャーが六基、コア・ブースターに装備されたガンダムAGE2のミサイルとビーム・バルカンとビーム・ライフル、左肩にセンサータンク、両肩のシールドはIフィールド付き……その機体はユースケの過剰なる小心から生みだされたという、いささかユーモアある生い立ちだったが、一時はボールを敗退させたほどの強力なガンプラだった。

 六人目の伝説のガンプラ・ビルダーは『カツ』、対戦したガンプラは、ナイチンゲールとリミックスした『ジ・O』。巨大要塞化させた彼のガンプラは、機動性という面では確かに劣勢と言えたが、それを補って大いにあまりある程の攻撃性能と防御力とを備えていた。しかもバトルのフィールドとして、障害物がなく三六〇度周囲を見回せる砂漠の平面を選択したことで、接近する脅威対象を容易に警戒でき、ふんだんに装備した武装の火力を余すことなく発揮可能な砲台として、バトルを優位に進めた。ボールはあの時の苦闘を思い出すと、いまでも手に汗を握る。

 そしてラストバトルの相手……七人目の伝説のガンプラ・ビルダーは『シューン』、対戦したガンプラは『ジオング・スペクトラ』。亡霊がごとき彼の白亜のジオングは、外装を他のガンプラとのミキシングではなく、プラ板とパテによって自作改修、加えて肩には開閉式のスラスターを追加装備した。その巨体からは想像もできない機動性を発揮し、バトルフィールドだったアー・バオア・クーディメンションにて縦横無尽なるマニューバを披露。しかも、機体全体に施された緻密で見事なスジボリは、シューンの溢れんばかりのガンプラ愛を、存分に感じさせた。

 そしてもちろん、ノズの『キュベレイダムド』と、マーキーの『百式壊(クラッシュ)』も忘れることはできない。二人のガンプラは一見、禍々しく異様にも思える容姿だが、それを作り込んだ彼女たちのガンプラへの想いが、まるで輝きとなって放たれていた。

 皆と一緒にガンプラバトルを通して過ごした時間は、まさに満ち足りたものだった。

 しかしボールは、心の中にぽっかりとひとつ、穴が開いている気がしてならなかった。それはいったい……思い出そうとする彼に、ノズが「ねぇ」と、両手を水鉄砲にして、湯をかけた。

「なんでここに集まってくれた七人って、『レジェンド』なの?」

「それはみんなが、ゴールデン・ポリキャップを授けられたガンプラ・ビルダーだから……だよね」

 ボールは答えると、七人に同意を促す視線を向けた。

「……ゴールデン・ポリキャップ?」

 ヨシがキョトンと聞いた。

「え?」

 見回せば、他のビルダーたちも同様、ボールに不思議そうな視線を向けている。

「いやいやいや」ボールは戸惑い、「黄金のあのポリキャップだよ、まさか忘れたの? ほら、眩しい輝きに包まれて、みんな手に入れただろ?」

「そんな記憶、ないけど……」

 シモダが不思議そうに言う。

「なに言ってんだよ、今日だって、ゴールデン・ポリキャップが願いをかなえてくれたから、こうしてみんなで温泉に来たんだろ?」

「ボールの方こそ、なにを言ってるんだ?」

 ロックが呆れたように告げ、

「私たちが温泉に来たのは、共に戦ったガンプラバトルの慰安旅行だろう?」

 ヤマタツが続ける。

「じゃ、なんでみんなレジェンドって……」

「それは、それぞれみんな、いろんなガンプラバトルで優勝してきたからだよ」

 ユースケがボールに答える。

「そんな……」

 からかっているのだろうか? しかし、見れば皆の方もボールに「からかっているのか?」という視線を向けている。  

 ふと、ボールはたずねた。

「聞きたいんだけどみんな……なんだか、心にぽっかり、穴が開いたみたいな気がしない?」

 レジェンド達の……ノズとマーキーの表情が、ハッとした。

「え? 君もそんな気がする?」

 思わずボールに向かって身を乗りだすカツの隣で、シューンが「実は私も……」と、懸命に何かを思い出そうとした。

「なんだか、大切なモノを無くしたような、そんな気がするんだ」


 ひょっとしたらゴールデン・ポリキャップなんてただの夢だったのかも──いつしかそう思いながら、ボールは、今日もガンダムベースにやって来た。

 見渡せば集っている大勢のガンプラファンたち、溢れんばかりの熱気。きらきらと眩しくて、いまにも弾けそうな大好きな光景。

 それでも、心にぽっかり空いた穴は、消えていない。

 ふと、聞こえてきた。

「そのゴールデン・ポリキャップが手に入ればさ、ゴキゲンなパーリィ出来るにちがいないんだってば!」

 GBNのログインカウンターで、その青年は、迷惑顔の美人アテンダント相手に、まるでナンパの口調で話しかけていた。

「え!? 君、ゴールデン・ポリキャップの事、知ってるの!?」

 ボールは思わず声をかけた。

「なに!? お前も!?」

 まるで屈託ないその青年は、古い友人と接するかの様に、ボールに応えた。

「じゃさ、いっしょに探しにいかね? ゴールデン・ポリキャップ!」

 その手には、ジム・ドミナンスが握られている。

 その手には、ボールが握られている。

 そしていま、ジムとボールの、新たな冒険の旅がはじまる。